パスカル・ロジェ作品「ゴーストランドの惨劇」のあらすじや見所・感想をご紹介!
今回ご紹介するのは2018年に公開されたパスカル・ロジェ監督のホラー、「ゴーストランドの惨劇」です。
パスカル・ロジェは2007年に「マーターズ」を撮って一躍名を上げた人物。
「マーターズ」は幼少時に謎の団体に監禁され、凄惨な虐待を受けていた少女の復讐劇を描いたもので、救いのない展開の連続やゴア描写が話題になりました。
「ゴーストランドの惨劇」の主人公はとなるのは双子の姉妹。
「マーターズ」と同じく、本作でも思春期の美しい少女たちが理不尽な暴力と悪意に曝されます。
「ゴーストランドの惨劇」あらすじ
物語は荒涼とした田舎道を走行中の車の車内から幕を開けます。
運転席でハンドルを握るのは中年の母親・ボリ―ン。
車には双子の娘ベラとベスも載り、ベスが母と姉に自作のホラー小説を読み聞かせていました。
ベスは勝気な不良娘で、母親にも終始反抗的な態度をとり続けます。
対するベスはホラー小説の大ファン。クトゥルー神話で有名なラブクラフトに心酔する、引っ込み思案で空想癖のある少女でした。
一家は辺鄙な田舎にある叔母の屋敷を相続し、そこへ移住する道中だったのです。
叔母の屋敷は彼女が蒐集した、アンティークなインテリアに埋め尽くされていました。
ゴシックホラーに出てくるお化け屋敷のような雰囲気に圧倒される一家。
怪奇小説を書いているベスは大喜びですが、ベラは不満げです。
引っ越しの荷物を整理している間も、ベラとボリーンの口論は絶えません。
姉妹仲も決して良好ではなく、現実主義なベラは、ろくに友人やボーイフレンドも作らず黴の生えたホラー小説に傾倒しているベスをあからさまに馬鹿にします。
将来小説家になった時の予行演習として、何十ページにも渡るインタビュー原稿を書いている事を姉に指摘されたベスは、恥ずかしさで部屋に閉じこもってしまいました。
ボリ―ンは繊細で傷付きやすいベスばかりを構い、喫煙をはじめとする問題行動が多く、気難しいベラの事は持て余しています。
そんな中、突然の惨劇が降りかかります。
女ばかり、母娘3人が引っ越した屋敷に二人組の暴漢が奇襲をかけたのです。
夜半の侵入者から逃げ回るも、次第に追い詰められていく母と娘。
か弱い娘たちを庇って必死の抵抗を示すボーリーンですが、無慈悲な暴漢に薙ぎ払われてしまいました。
母の庇護を失い、ベラとベスは絶体絶命の窮地に陥ります。
顔面蒼白で怯えきったベラとベスを守らんと、ボーリーンは咄嗟にナイフを手に取り、暴漢を刺し殺します。
ショッキングな惨劇から16年が経過した頃、ベスは優しく理解ある夫と可愛い息子に恵まれ、ホラー小説家としても大成していました。
公私ともに充実し幸福の絶頂のベスとは対照的に、母による暴漢の殺害現場を目撃したベラは事件後心を病み、地下室にひきこもってしまっていました。
久しぶりに帰省したベスは母親と楽しい語らいのひとときを過ごします。
ですがベラは地下室から姿を見せません。
すっかり人が変わってしまったベラを心配するベスもまた、屋敷に滞在中、恐ろしい幻聴やフラッシュバックに苦しめられます。
彼女は事件当時の記憶をはっきり思い出せません。
過去と決別し、自分の精神は正常だと信じ続けるベスに対し、ベラはある衝撃的な真実をつきつけます。
二転三転のどんでん返しが続く、とても衝撃的な作品でした。ティーンエイジャーの美少女2人が心身ともに壮絶な虐待を受け、極限状況に追い込まれる展開は、監督の前作「マーターズ」と通底していますね。パスカル・ロジェの趣味でしょうか。
R15指定されていますがそこまでグロテスクなゴア描写はなく、割れたガラス片や、生々しい恐怖に歪んだ血まみれの顔をアップで見せるなど、間接的な演出で視聴者の嫌悪感に訴えかけてきます。
「マーターズ」は英語で「殉教者」という意味ですが、本作のベラとベスにも出口のない状況下で受難に耐え抜くのを余儀なくされる、残酷な運命が待ち受けています。
ベラとベスは事件当時多感なティーンエイジャーで、それぞれに悩みを抱えていました。ベラは母親の関心を独り占めするベスに嫉妬し、ベスは快活な姉に劣等感を抱いています。
そんな二人が互いが互いの支えとなるしかない極限状況で、次第に生きる気力に目覚めていく姿が胸を打ちます。
「ゴーストランドの惨劇」感想・見所
本作で注目してほしいのは舞台となる田舎の屋敷のインテリア。
叔母のコレクションらしい不気味な調度や標本に埋め尽くされた洋館内は、いかにも不吉なドラマが起きそうな雰囲気が漂っています。
映画の中盤で明らかになりますが、ボーリーンが暴漢を撃退したというのはベスの妄想であり、実際の所ボーリーンの反撃は報われず、娘たちの眼前で殺害されていたのでした。
時代が突然16年後に飛んだのは、暴漢たちによってベラと共に暗い地下室に監禁されたベスの、現実逃避の妄想だったというのがネタバレです。
現実の2人は非力で無力、唯一の頼りの母さえ失った十代の少女のままでした。ともすれば究極の共依存ともいえる、姉妹の絆に泣かされます。
漸く正気に戻り、その事を嘆くベスに、それはもう嬉しげにベラが食べ物を分け与えるシーンは胸が詰まりました。
まとめ
本作はただの胸糞映画では終わりません。
過酷な暴力にさらされる閉塞状況で互いを支え合い、最後には希望を見出す姉妹愛は、イノセンスで美しいものでした。
彼女たちと対となる暴漢2人組の不気味な存在感にも注目。作中彼らはほぼセリフがなく、言葉の通じない敵、無垢な少女たちを脅かす悪として描かれています。
二人組の片割れの巨漢は知的障害者のような描写があり、屋敷中の人形を集めて可愛がるのですが、寝室に連れ込もうとしたベスが偶然にも初潮をむかえたため、汚い物のように放りだします。
ベスとベラが性的暴行を受けたか否かは明確に描写されませんが、彼らが監禁した被害者をあくまで「お人形」と見なしていたなら、レイプは免れたかもしれません。
ベスの妄想の中、パーティーシーンの招待客の1人としてラブクラフトが登場します。
ベスの愛読書がクトルゥフ神話である設定を生かす遊び心であり、ホラー小説の巨匠への監督のリスペクトがうかがえますね。