最も有名なピエロのダークヒーロー「ジョーカー」のあらすじや見所

今回ご紹介するのは「ジョーカー」です。

監督は「ハングオーバー!」シリーズなど、コメディに明るいトッド・フィリップス。彼とホアキン・フェニックスが組んで世に送り出した、本作の魅力とは何でしょうか。

 

「ジョーカー」のあらすじ


1981年のゴッサムシティから物語は幕を開けます。

ゴッサムシティは経済格差が激しく、清掃業者が賃上げのストライキを行い、ゴミの回収を拒否しているせいで悪臭ふんぷん荒廃していました。

 

主人公のアーサーは冴えない中年男性。一流のコメディアンをめざす傍ら、ピエロの仕事で生活費を稼いでいます。

しかし気弱で内向的、緊張すると突然笑いだす精神疾患を持ったアーサーは周囲に蔑まれていました。

アーサーは老母のペニーと二人暮らしでした。

 

ペニーは病気で寝たきりな為、アーサーが介護しなければいけません。

以前メイドとして働いていた大富豪トーマス・ウェインへたびたび手紙を送り、経済的な援助を申し込むペニーでしたが、ウェインから返事が来ることはありませんでした。

 

孤独なアーサーの唯一の慰めは、同じアパートに住むシングルマザー・ソフィーの存在です。

エレベーターに乗った際にささやかな会話を交わした事がきっかけで、ソフィーに仄かな恋心を抱くアーサー。

ですが彼を取り巻く状況はどんどん悪化していきます。

 

市の福祉の一環として行われていたカウンセリングも打ち切られ、アーサーは情緒不安定に。

そんな彼に同僚のランドルが無理矢理銃を押し付けます。しかもアーサーは小児病棟の慰問時に銃を落とすミスを犯し、これが原因で上司にこっぴどく怒られクビにされてしまいます。貸した本人のランドルは知らんぷりでした。

 

職を失って絶望したアーサーは地下鉄にて、女性が酔った男たちに絡まれている現場に遭遇します。その時に運悪く笑いの発作が出て、喧嘩を売られたと思った男たちはアーサーを暴行。アーサーは持っていた銃を乱射、全員を殺害し地下鉄から逃走しました。

この一件が報道され、アーサーは虐げられた貧困層のヒーローに祭り上げられます。

 

ウェインが殺人鬼をちやほやする大衆を「ピエロ」と揶揄した為、彼に反感を抱く者たちはピエロマスクを被り、抗議のデモ行進をします。

ピエロメイクのアンチヒーローとして大衆に偶像視され、全能感と優越感に酔いしれるアーサー。

 

アーサーはソフィーと親密さを増していき、クラブで初出演するステージに彼女を招待します。笑いの発作を起こしたアーサーのコントは滑ったものの、ソフィーとだけは気持ちが通じ合いました。

帰宅後、アーサーはペニーが書き損じた手紙を発見し驚愕の事実を知ります。なんと、自分はペニーとウェインの間にできた子供だったのです。

 

父恋しさからウェイン邸を訪ねたアーサーは、ウェインの息子・ブルースに手品を見せて関心を引こうとしますが、執事のアルフレッドに邪険に追い返されてしまいました。

帰宅したアーサーは、アパートの前にパトカーが停まっているのにぎょっとします。

警察は地下鉄の犯行で、既にアーサーを疑っていたのです。

 

ペニーの病室に付き添ったアーサーは憧れのコメディアン、マレー・フランクリンをテレビで見ています。

マレーは先日のコントの映像をテレビにかけ、アーサーの芸をコケにします。道化を意味するジョーカーのあだ名まで付けられ、アーサーは屈辱に煮え立ちました。

 

後日、アーサーは一家揃って劇場に来ていたウェインに接触。

トイレに立った彼を隠し子の件で問いただしますが、ウェインはきっぱり否定し、屋敷で働いていた当時からペニーには妄想癖があり、彼女を宥める為に養子をとるのを勧めたのだと告げました。

ウェインの言葉が信じられないアーサーは、ペニーが以前入院していたアーカム州立病院にやってきて、母のカルテを閲覧します。

 

そこで判明する衝撃の真実。

ウェインの発言は全面的に事実であり、ペニーとその恋人は幼いアーサーを虐待していました。

しかもアーサーが障害を負ったのは、ペニーが恋人の虐待を放置していたせいだったのです。

 

最愛の母の裏切りにうちのめされたアーサーは、枕をペニーの顔に押し付けて窒息死させたあとアパートに帰り、ソフィーの部屋で彼女を待ちますが、帰宅したソフィーはアーサーをまるきり不審者扱いするではありませんか。

なんと、ソフィーと恋愛関係にあるというのは全てアーサーの妄想でした。

ソフィー殺害後に部屋に帰ったアーサーは、マレーからテレビ番組への出演オファーを受けます。

 

そして放送当日、元同僚で小人症のゲイリーとランドルがアーサーの母親の死を知り、お悔やみを言いにきました。ゲイリーは純粋にアーサーを心配していますが、ランドルは自己保身しか考えておらず、銃の出所が自分とばれないようにアーサーを脅しにきたのでした。アーサーはランドルをためらいなく射殺するものの、ゲイリーだけは見逃します。

 

アパート周辺は警察に包囲されていました。

警察の追跡を巻いてスタジオに到着したアーサーは、マレーが司会を務める番組でジョーカーと名乗り、地下鉄での犯行を暴露します。

 

驚愕する観客やマレーに対し泰然自若と振る舞い、ゴッサムシティの腐敗は格差社会のせいだと批判。

社会府適合者として差別されてきた怒りを生放送でぶちまけるアーサーを、マレーは慌てて摘まみだそうとしますが、アーサーが抜いた銃によってたちどころに撃ち殺されました。

 

この放送がきっかけで、ジョーカーに扇動された市民たちが大規模な暴動を起こしました。彼らはパトカーで護送されるアーサーを奪還し、胴上げで称えます。

暴動に巻き込まれまいと妻子ともども路地に避難したウェインはジョーカーシンパの強盗に襲われ、一人息子のブルースだけが生き残るのでした。



「ジョーカー」の見所


本作の見所はやはりホアキン・フェニックスの鬼気迫る怪演です。冒頭、白塗りメイクを施した顔面をツウッと涙が伝い落ちるシーンから引き込まれました。

色々と吹っ切れたアーサーが、階段をタップしながら下りる所は屈指の名シーンですね。

また、後半で明かされるどんでん返しも脱帽です。

 

ソフィーとの恋愛関係が一部始終アーサーの妄想だったとは、既に絶望している観客をさらに絶望のどん底に叩き落とす展開に開いた口が塞がりません。

老親の介護、精神障害、格差社会、差別と貧困……。

 

80年代を舞台にしながら現代の世相を映した問題を多く盛り込んでおり、アーサーと似た境遇の人が観れば、ただならぬ共感を持たざるえません。

アーサーがカウンセリングを受ける部屋の時計が常に11;11で止まっているなど、妄想と現実の区別が曖昧な細部にも考察がはかどりますね。

 

「ジョーカー」の評価・感想


アーサー役にホアキン・フェニックスを抜擢した時点で成功は約束されていました。彼の熱演を絶賛する声が多いです。

一方で原作のジョーカーとかけ離れている、もはや別物と批判されていました。

確かに、この話をあえてジョーカーでやる必要は感じられませんね。極論すればバットマンと関係ない、無名の人でも成立します。

 

映画の大半はジョーカーの活躍にあらず、底辺でもがくアーサーの悲惨な人生模様が描かれているので、アメコミヴィランが大暴れする爽快感はありませんでした。

「ダークナイト」のジョーカーのようなカリスマ性を期待すると拍子抜けかもしれません。